読み書きに困難を抱える子どもを支援
Google Workspace拡張機能で
自分に合った学びを
2026年9月24日
B Labが主催する「ニューロダイバーシティプロジェクト」では、脳や神経の多様性を尊重し、誰もが自分らしく力を発揮できる社会の実現を目指しています。今回のニューロダイバーシティプロジェクト・インタビューシリーズでご紹介するのは、2026年の「みんなの脳世界」に初めて出展するゼッタリンクス株式会社 の取り組みです。同社では、読み書きに困難を抱える子どもたちに向け、授業で利用するGoogle Workspace向けの拡張機能を提供し、一人ひとりが自分に合った学びを実現できるように支援しています。同社の代表取締役 山田 邦裕氏(▲写真1▲)に、「みんなの脳世界」の出展内容や今後の取り組みなどについて、B Lab所長の石戸奈々子(▲写真2▲)がお聞きしました。


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子どもたちがもっと学びやすく
ICTを活用しやすい環境づくりを支援
石戸:「今回は、『みんなの脳世界』に初参加となるゼッタリンクスの山田さんにお越しいただいています。『みんなの脳世界』での展示内容と、普段はどのようなサービスを提供されているのかについてお聞かせください」。
山田氏:「ゼッタリンクスは設立15年目を迎える、学校・教育機関向けのICT教材やソフトウェアの開発会社です。近年、GIGAスクール構想によって小・中学校への1人1台端末の整備が進み、中でもChromebookが広く利用されています。当社では、Chromebook上で利用されるGoogle Workspace向けの拡張機能を提供しています。
Google Workspaceは海外で開発されたサービスのため、日本語特有の縦書きやルビなどに十分対応していないところがあります。そこで当社では、縦書きやルビを利用できる拡張機能を開発し、学校現場に提供しています。さらに、こうした技術を応用し、ディスレクシア(発達性読み書き障がい)のある子どもたちの学習を支援する機能も提供しています。例えば、文章にふりがなを付けたり、ホームページ上の文章を分かち書きで表示したりすることで、子どもたちがより読みやすく、ICTを活用しやすい環境づくりを支援しています。
当社の代表的な商品が、「Suite ツール」です。(▲写真3▲)

このようにGoogle Workspace向けの拡張機能をはじめ、Microsoft Officeを子どもたちが使いこなすためのメニューを提供する機能などを開発しています。(▲写真4▲)

Google Workspace向けの機能では、日本語特有の縦書きやルビに十分には対応していないので、拡張機能を提供しています。(▲写真5▲)

横書きで書かれている文章を拡張機能で縦書きに変換できます。(▲写真6▲)

学年別ルビ(ふりがな)一括変換の機能を使うと、例えば小学校3年生までに習った漢字にはふりがなを振らずに、それ以降の漢字にはふりがなを振り、しかも縦書きで表示することもできます。(▲写真7▲)

さらに、Googleスライドに展開することも可能で、例えば長文のメッセージや国語の授業で問題文を作りたい時は、縦書きにしてキーワードなどをブランクにして穴埋めの問題文を作成することもできます。段組みも可能なので、長文を段組みにしたり、行間や文字間を調整したりすることで、漢文の文章も作成できます。
ホームページの分かち書きなど
授業を支援するさまざまな機能を提供
ホームページを分かりやすく、読みやすくする「よむサポ」という機能も作っています。(▲写真8▲)

例えば、3年生以上の漢字にだけルビを振る設定にして、分かち書きをすることで、文節ごとにスペースを入れたり、スラッシュを入れたりして読みやすくできます。(▲写真9▲)

この機能をYahoo!ニュースなどで実行すると、文節区切りで読みやすくできます。読むのが苦手な子どもたち、ディスレクシアの子どもたちでもホームページを見ることができるようになるのです。学校現場では、ホームページを読んだり調べ学習をしたりするときのツールとして利用いただいています。文節の区切りをスラッシュではなくスペースにしたり、行間や文字間隔を広げたりするなど、子どもたちが自分で読みやすい設定にすることも可能です。
さらに、「よむサポ」には先生が子どもたちのログを取れる機能も実装されています。どの子どもがどのような設定でホームページを閲覧しているのかを確認できるので、子どもたちの特性を知りながら、先生が個別に指導できるようになっています。(▲写真10▲)

協働学習や調べ学習のときに活用できる機能では、「ふせん集計」という機能も提供しています。(▲写真11▲)

調べ学習で、調べた内容にふせんを貼り付ける場合がありますが、どの色のふせんを何枚、貼り付けたかを自動集計してグラフ化できます。(▲写真12▲)(▲写真13▲)


グラフにするとどの色のふせんが多いのかが一目瞭然ですので、どういった内容の情報を収集したのか、その傾向を確認できます。また、棒グラフや円グラフにしたり、ワードクラウドでどの言葉が多いかなどを見たりすることもできます。いろいろな形で調べ学習のまとめをすることができるツールです。
このように当社は、先生方からさまざまなご意見をいただきながら、学校現場でICTを活用した授業が少しでも進みやすいようにする拡張機能やツールを提供しています。
そして、もうひとつ。最後にご紹介したいのが、「かんたんメニュー」という機能です。(▲写真14▲)

Google Workspaceなどさまざまなツールは、必ずしも子ども向けに作られているわけではないため、メニューが複雑で子どもにわかりにくく、知らない言葉や用語も数多くあると思います。子どもたちは授業中に使い方に迷ってしまうことが多いのですが、かんたんメニューを使うと『使う機能だけ』が表示されます。かんたんメニューをオンにすると、まずメニューにふりがなが振られます。そして、使わない機能は表示されず、使う機能だけが表示されるようになります。一番シンプルなメニューにすると、使う機能しか表示されなくなるので、図形の挿入もできなくなり、純粋に文字入力だけに集中して操作することができます。このように学校現場で子どもたちが安心してICTを使えるようにする機能も提供しています」。
自分では気づきにくい「読みづらさ」
ICTで適切な支援につなげる
石戸:「ありがとうございます。私自身、現在はニューロダイバーシティの活動に力を入れていますが、それ以外にも、2005年頃から1人1台の情報端末で学ぶ環境を整備して欲しいと政策提言を始め、情報端末導入に向けたデジタル教科書運動などに取り組んできました。ですから、山田さんのお話は非常に興味深く伺いました。私自身、1人1台端末の環境整備は、すべての子どもたちに個別最適化された合理的配慮を提供するためのインフラだと考えています。山田さんたちが提供されているサービスも、まさに一人ひとりに合った学習環境を実現するためのインフラとしてのサービスですよね。非常に感銘を受けました。
『みんなの脳世界』への出展では、ディスレクシアの子どもたちにとって最適な『読む環境』にフォーカスした機能やサービスを紹介いただくのでしょうか。現在、30~40人のクラスであれば、2~3人程度はディスレクシアの特性がある子どもがいるとも言われています。実際にこのサービスを提供される中で、先生方や子どもたち、保護者からは、どのような声が上がっていますか」。
山田氏:「ディスレクシアの子どもたちにも、さまざまな特性があります。当社が提供しているものが、そうした子どもたちの全てに完璧にマッチしているわけではありません。やはり、もっとさまざまなニーズを吸い上げないといけません。個別の特性に合わせながら、『ICTだからできること』を提供していきたいと考えています。具体的には、分かち書きもスラッシュで分けていますが、色で分けて欲しい、下に線を入れて欲しいなどさまざまな要望があります。こうした要望の全てに対応できるかどうかは難しいのですが、子どもたちが自分で見やすいものを自分でカスタマイズして、学ぶ環境を整えていくということができるようにしたいと考えているところです」。
石戸:「ありがとうございます。子どもたちの『読むこと』を支援するサービスを提供しようと思われたきっかけは、どのようなことだったのでしょうか」。
山田氏:「もともとは、ふりがな機能を学校現場に提供していました。その中で、じつはふりがなだけでなくて、分かち書きで区切ってあげないとなかなか読めない子がいるという話を先生方から聞いたのです。ふりがなは文節ごとに振れるので、そこにスペースを入れることで分かち書きができるとなったのがスタートです。日本語を学び始めた外国人の子どもたちも、じつは文節区切りをすると非常に読みやすいというのを聞いていましたので、そういった子どもにも提供できるのではないかと今、考えているところです」。
石戸:「文節を区切ることで読みやすくなり、それをきっかけに本を好きになっていく子どもたちもたくさんいるのではないかと思いながら、お話を伺っていました。一方で、ディスレクシアに話を戻すと、まだ社会的に十分理解されている状況ではないと私は認識しています。ディスレクシアの方々が現在どのような状況に置かれているのか、日本と海外の状況も含めて、山田さんがどのように認識されているのか教えてください」。
山田氏:「海外の状況については情報が少なく正確なところは分かりません。日本では、さまざまな講習会や先生方の講座に参加させていただいて、ディスレクシアの状況について情報収集しています。それを踏まえてお話しすると、ようやく学校の現場でも理解され始め、少しずつ配慮がされているといったところだと感じています」。
石戸:「読むことが苦手な子どもたちには、どのような理由や背景があるのでしょうか。また、それぞれの困難に対して、どのような支援やソリューションがあるのかについても教えていただけますか」。
山田氏:「読むことが苦手な子どもたちの状況という視点では、読みづらいということを本人が自覚していなくて、単に勉強がなかなか進まないとか、自分は考える力が弱いのではないかと思ってしまっている子どもが意外と多いのではないでしょうか。先生もそうした子どもに気づかない状況です。そうした中で、例えばホームページを文節区切りにすると、結構、早く読めるようになったといった経験をして、初めて自分の特性に気づくことが多いと聞きました。なかなか診断も難しく、ましてや子どもが自分で自分の特性を診断するのは難しいでしょう。もう少し先生方が配慮できるような、気づくきっかけになるようなものが提供できればと考えています。先生がクラスの中で『あの子はちょっと読むのが遅いけれど、じつはこういう工夫をすればちゃんとできる』と気づけるような、そんな機能やツールを提供していきたいと考えているところです」。
石戸:「その視点で考えると、子どもたちが実際にどのように読んでいるのかをICTを活用してデータとして取得し、AIで分析することで、一人ひとりに合った読み方を自動的に提供することも、十分に実現可能なのではないでしょうか。そういった方向性についても、すでにお考えでしょうか」。
山田氏:「ぜひ専門家の先生方と一緒にやらせていただきながら、提供できると素晴らしいと思っています」。
学校・授業でのICT活用は
まだまだこれから
石戸:「将来的には、さまざまな技術の進化によって、読むことが苦手だったり、難しかったりする子どもたちへの支援が、これまで以上にできるようになっていくと思います。例えば、文章を読み上げてくれる機能もあります。そう考えると、『文字を読めるようになること』だけが必ずしもゴールではないのではないかと思います。そのあたりを、山田さんたちはどのように考えていらっしゃいますか」。
山田氏:「まず、読み上げ機能については、パソコンの基本ソフト(OS)がもともと備えていたり、スマートフォンにも読み上げ機能がついていたりするので、最近では読むことが苦手な子どもたちが読み上げ機能を活用しているということはよく聞きます。ただし、音声で聞いて理解するだけではなく、やはり目で見て文字を読むことも実際の社会では重要です。そういった視点で当社がサービス提供できればと考えています」。
石戸:「もともとは授業で活用することを前提に、授業の中で子どもたちをサポートするという視点からサービスをスタートされたと思います。一方で、先ほどご紹介いただいた、ホームページにふりがなを振ったり、分かち書きにしたりする機能などは、学校だけではなく、家庭での日々の暮らしの中でも、読むことが苦手な子どもたちのサポートになるのではないかと思いました。それを踏まえて、ここから先、このサービスが目指している方向性についてお聞きしたいと思います。今後どのようなところまで広げていこうと考えていらっしゃるのでしょうか」。
山田氏:「ふりがなや分かち書きの機能がホームページだけでなく、例えばPDFにも対応すれば、読むのが苦手な子どもたちがもっと多くの文章を読めるようになるでしょう。PDFへの対応も今、検討しているところです。学校から配布される連絡などもPDFが多いのです。教材でもPDFで提供されているものもあります。ふりがなを振ったり、分かち書きをしたりできれば、もっと文章も読みやすくなると思っています。当然、音声読み上げもあるのですが、音声読み上げはどうしても読み上げる速度で頭に入ってきますので、目で見て文字を読む、理解する認知とはちょっと違う特性かと思っています。やはり文字で読むことが必要になってくると思っています」。
石戸:「現状、一人ひとりに合った学習環境を実現するためのICT活用は、どこまで進んでいるとお考えでしょうか。そして、技術の進化によって、これからさらにどこまで実現できるようになっていくのか。山田さんが描いている今後の可能性についてお聞かせください」
山田氏:「まだまだ入り口だと思っています。ただ、今までの紙の教科書と比べるとICTで、いろいろなことができるようになったのは確かだと思います。それに合わせて、さまざまな学び方が出てくると思います。AIなど次々に新しいICTが出てくると思いますが、それに頼るのではなく、それを子どもたちが自由に活かして、自分のさらなる学びにつながるようになっていけば良いと思います。可能性はこれからだと思っています」。
石戸:「ありがとうございます。先ほど、学校現場でも先生方の理解が深まっているというお話がありましたが、本日ご紹介いただいたようなテクノロジーが次々と登場する中で、学校の学びはまさに変革期にあると感じました。
一方で、不登校の子どもたちが増えている現状もあり、そうした変化が十分に行き届かない中で、生きづらさや学びづらさを感じている子どもたちもいるのではないかと思います。学校に向けたサービスを提供されているお立場から、これから学校や教育委員会にどのように変わってほしいとお考えでしょうか。また、『ここが変われば、より良い学習環境を提供できる』と感じていることがあれば、ぜひ教えてください」。
山田氏:「すごく先導的にやっている先生や、取り組みが先進的な学校もあるのですが、そうではない学校もまだまだあります。役所や保護者もそうですが、どうしても横並び的な意識があるので、先導的なところがちょっと抑え気味になってしまいます。先進的な学校がさらに進んでいけるようにすることは大切だと思います。同時に格差があってうまく対応できない学校もあるので、そこをうまく引き上げてサポートできるような役割を、我々民間の事業者として果たしていきたいと考えています。学校を中心に地域や企業を含めて周囲が支援するような体制、そうした体制が自然とできあがるようになれば良いなと考えています」。
個別最適な学びを
本当に現場に根付かせていくために
石戸:「先ほど、これから先ももっと利用者の声を聞いていきたいというお話がありました。これまで、実際に使っている子どもたちの様子や反応を見て、『こんな機能が必要だったのだ』と新たな発見があり、それが機能やサービスにつながったという事例があれば教えてください。また、そういった声やニーズはあるものの、まだ実装できていない機能についても、ぜひ教えていただきたいと思います。いかがでしょうか」。
山田氏:「今回、作文機能を作りました。(▲写真15▲)

これは、入力した文字を作文用紙に展開する機能です。ディスレクシアと違ってディスグラフィア(書き字障がい)の子どもたちもいます。タイプ入力ならちゃんと文章が書けますが、文字を書くことに関して苦手意識があり、作文がなかなか書けないという特性です。夏休みの宿題で、作文は書けないけれどパソコンを使うと思うように書けるという子どもがいるという話を聞きました。であれば、文字を入力して、それを作文用紙に展開して提出できれば、他の子と同じように作文の宿題ができると考え、この機能を提供しました。パソコンなどで文字を入力して、横書きのワープロ文章で出せば良いという考えもありますが、子どもとしては他の子と同じように作文用紙に仕上げたものを宿題として出したいのです。子どもたちにそういった気持ちがあること、そこにこの機能へのニーズがあること、これらはやってみないと分からないことでした」。
石戸:「実際にこうしたサービスを提供することによって、例えば、子どもたちの読む量や書く量が増えた、成績が上がった、授業に前向きに取り組めるようになったなど、何らかの変化や効果は見られていますか。また、そうした成果についてのデータは取得されているのでしょうか」。
山田氏:「まだ、なかなか子どもたちから聞き取れていないところです。先生方の声で聞くことはあるのですが、定量的なデータとしてはまだ取れていません。その点では、まだまだローカルなやり方しかできていないのが現実です」。
石戸:「先生方からの反応はあるとのことでしたが、実際にどのような声が上がっていますか。」。
山田氏:「パソコンを使う時間が増えたとか、授業の中でもっと活用できるようになったという声は聞いています」。
石戸:「保護者からの声はいかがでしょうか」。
山田氏:「なかなか評価や感想などを聞くことができていない状況です。保護者からの声を聞き取るのは意外にハードルが高いのです。今回、『みんなの脳世界』への出展を決めたひとつのきっかけは、保護者からダイレクトに感想を聞きたいということでした。子どもたちの声なども先生経由で聞いていたので、『みんなの脳世界』がきっかけになればと思っています」。
石戸:「そう思っていただけていることは、とても嬉しいです。当日は、多くの親子が来場しますので、子どもたちや保護者の反応を肌で感じて、間近で見ていただけるのではないかと思います。今日お話を伺って、山田さんたちが提供されているのは、支援が必要な子どもたちのためだけのツールではなく、すべての子どもたちにとって使いやすい機能であり、一人ひとりが自分に合った学び方で学べる環境をつくろうとされているのだということが、よく分かりました。最後に、一人ひとりに最適な学びを実現したその先に、どのような社会をつくっていきたいと考えていらっしゃるのか、その思いをお聞かせいただいて、終わりにしたいと思います」。
山田氏:「個別最適な学びを本当に現場に根付かせていく、当たり前にしていく、そうした世の中にしていくために我々のツールが少しでもお役に立てばとても嬉しいです。現場に根付かせていくのは地道な作業です。先生方と協力しながら一歩一歩、やっていかなければいけません。その気持ちを持ち続け、先生方をご支援し、取り組んでいきたいと考えています」。
石戸:「一人ひとりに異なる学び方があり、認知特性にも違いがある。そのことを前提に学びの環境をデザインしていく。その先に見えてくるのは、『特別な支援』が必要な社会ではなく、誰もが自分に合った方法で学び、自分らしく力を発揮できる社会なのではないかと思います。山田さんたちが提供されているサービスは、まさに『みんなの脳世界』が目指しているビジョンとぴったりだと感じました。本日はありがとうございました」。