REPORT

自分に合った学び方を自分で選べる
一人ひとりの「学びやすさ」をつくる
ベネッセ高等学院の挑戦

2026年8月12日

B Labが主催する「ニューロダイバーシティプロジェクト」では、脳や神経の多様性を尊重し、誰もが自分らしく力を発揮できる社会の実現を目指しています。今回のニューロダイバーシティプロジェクト・インタビューシリーズでは、株式会社ベネッセコーポレーション 多様な学び開発ディレクター 城座 多紀子氏(▲写真1▲)にご登場いただき、高校生向けの通信制サポート校・ベネッセ高等学院についてお話を伺いました。従来の学校で学びづらさを感じていた子どもたちに寄り添い、一人ひとりに合った学び方を実践している同校の取り組みについて、B Lab所長の石戸 奈々子(▲写真2▲)がお聞きしました。

▲写真1・株式会社ベネッセコーポレーション 多様な学び開発ディレクター 城座 多紀子氏▲
▲写真2・B Lab所長 石戸 奈々子▲

>> インタビュー動画も公開中!

通学もオンラインも自由に選べる
自分のペースで学べる環境をつくる

石戸:「本日は、株式会社ベネッセコーポレーションの城座さんにお越しいただきました。『みんなの脳世界』には今回、初めて出展される予定とのことですが、まずは出展内容と普段の取り組みについてお聞かせください」。

城座氏:「ベネッセコーポレーションで、多様な学びを開発する仕事に携わっています。私たちが運営しているベネッセ高等学院は、高校生向けの通信制サポート校として2025年4月に開校しました。大学進学を目指す進学科と高校卒業を目指す基礎科があり、オンライン中心で学ぶスタイルのほか、通学についても週1日、週3日、週5日など、自分に合った頻度を選べます。

学院が大切にしている考え方が、『Be you. Become more.』です。自分らしさを見つけ、自分なりの未来や進路を見いだしていくことを、私たちは『真・第一志望』という言葉で表現しています。

開校時のコンセプトを考える中で、大人になった時点での幸福度には、世帯年収や学歴以上に、『自分で自分の人生を決めてきた』、『自分の進路を自己決定してきた』という感覚が大きく関係するという研究について議論しました。子どもたちが、自分の思いや個性、興味・関心を起点にして自分なりの未来を見つけていく。そのプロセスに丁寧に寄り添い、自ら自己決定していけるような学びの場をつくりたいという思いからスタートしています。

その後、高校生だけでなく中学生にもこうした学びの場を求める声が多く寄せられたことから、中等部も開校しました。中等部はフリースクールという形で、地元の学校に在籍しながら、学校に通うことに難しさを感じる子どもたちが、自分のペースで学びを進められる場になっています。

今回、『みんなの脳世界』に何を出展しようかと考え、学院生にアンケートを実施しました。すると、とても興味深い結果が得られました。以前の学校では『学びやすかったとは言えない』と答えた子どもがかなりの割合を占めていたのですが、ベネッセ高等学院に入ってからは、中高生ともに約96%が『現在は学びやすい』と回答しました。(▲写真3▲)

▲写真3・96%の学院生が「学びやすい」と回答▲

また、以前の学校で学びづらさを感じていた子どものうち、約97%が『学びやすさが改善した』と回答しています。(▲写真4▲)

▲写真4・97%が学びやすさが改善したと回答▲

では、なぜ学びやすくなったのか。自由回答を分析すると、大きく5つの理由が見えてきました。『自分のペースで学べるようになった』、『通学することへのハードルが下がった』、『対人ストレスが減った』、『学びを自分で決められるようになった』、『寄り添ってくれる人がいる』というものです。(▲写真5▲)

▲写真5・学びやすさが改善した理由5つ▲

現時点では、速報としてお伝えし、石戸さんのご意見もいただきながら、出展の準備として深堀りしていきたいと考えています」。

石戸:「素晴らしい結果ですね。これまで学びに苦しさを感じていた理由が、そのままデータとして見えてきているように感じます」。

城座氏:「私たちも、まさに『子どもたちは、こういうことが苦しかったのだ』と感じました。最も多かったのが、『自分のペースで学べるようになった』という声です。例えば、登校する頻度を自分で選べますし、通学する予定の日であっても、その日の体調や気分に応じて『今日はオンラインにしよう』と自由に切り替えることができます。

ベネッセ高等学院では、基本的にすべての授業をオンラインでも受けられる仕組みにしています。キャンパスに来ている子どもも、個別ブースなどからオンラインのライブ授業に参加します。そのため、通学からオンラインに切り替えたからといって、授業の質が変わったり不利益が生じたりすることがありません。『今日は、通学しなければならない』ではなく、『今日は、どちらでも良い』という安心感そのものが、生徒たちの心理的安全性につながっているのではないかと思っています。

時間割についても、モデルは示しますが、全員が同じように過ごす必要はありません。例えば、朝はなかなかエンジンがかからないので、1時間目は自分の好きなイラストを描く時間にして、2時間目から教科学習に入るという生徒もいます。自分の興味や状態に合わせて、授業の時間割を組み換えられるのです。(▲写真6▲)

▲写真6・自分に合った時間割を組むことができる▲

朝はオンラインでゆっくり始めて、午後からキャンパスに来る生徒もいます。普通の学校では難しいかもしれませんが、『今日は、自分の状態に合わせてこうしよう』と、毎日の過ごし方を自分で決めて良い。子どもも保護者も、少しずつそうした選択に慣れていきます」。

「みんなと同じ」に合わせなくて良い
自分が心地よい参加方法を選べる

石戸:「オンラインと通学をシームレスに選べることが、大きな特徴なのですね。オンラインで学ぶ子どもたち同士のつながりは、どのようにつくっているのでしょうか」。

城座氏:「バーチャルキャンパスがあります。子どもたちは朝、オンライン上のキャンパスに入り、『登校』します。通学している子もオンラインの子も、まずは同じバーチャルキャンパスに入ります。(▲写真7▲)

▲写真7・バーチャルキャンパスの概要▲

ホームルームでは、顔を出して参加する子もいれば、アバターで参加する子、画面をオフにしてリアクションボタンだけで反応する子もいます。例えば七夕が近ければ、オンライン上で短冊を書いて願い事を共有するなど、楽しめるイベントも取り入れています。(▲写真8▲)

▲写真8・オンライン上でのHRの様子▲

また、『Beログ』という仕組みがあり、子どもたちは毎朝、その日の気持ちの状態や今日やりたいことを書き込みます。『今日はこんな一日にしたい』と自分で宣言し、それを担任が見てコメントを返します。

こうしたことを日々続けることで、自分の状態を俯瞰して捉える、自分をメタ認知する、今日は何をするか自己決定するといったことが少しずつ習慣化されていきます。同時に、それを受け止めてくれる大人がいるという安心感にもつながっています。

アンケートで多かったもう一つの声が、『対人ストレスが減った』というものです。子どもたちからは、以前の学校では『大人数が苦手だった』『音がにぎやかすぎてつらかった』『グループワークが苦痛だった』という話をよく聞きます。ベネッセ高等学院では、自分が心地よい参加方法を選ぶことを前提にしています。昼休みも、みんなと一緒に食べたい子もいれば、個別ブースで一人静かに食べたい子もいます。

オンラインイベントでは、顔を出して参加することもできますし、声を出さず、アバターやリアクションボタンだけで参加することもできます。例えばクイズ大会では、画面上のA、B、Cといったゾーンにアバターを移動させて回答できます。クイズには参加しているけれど、顔も声も出していない。それも普通の参加方法です。

カードゲームやボードゲームのほか、子どもたち自身が考えた遊びも日々生まれています。参加したい人は参加する。オンラインで参加しても良い。一人で静かに過ごしても良い。『周りがこうしているから自分も合わせなくてはいけない』という同調圧力を、できるだけ生まないようにしています。

こうした経験を積み重ねると、自分のあり方を大切にすると同時に、相手のあり方も尊重することに子どもたちが自然と慣れていきます。もちろん、オンラインだけを大切にしているわけではありません。部活や同好会もありますし、リアルな遠足や文化祭も開催しています。文化祭では実際に集まって音楽を演奏したり、コントをしたり、自分の作品を発表したりします。リアルかオンラインかという二者択一ではなく、リアルでも良い、オンラインでも良い。顔を出しても良い、声だけでも良い、リアクションボタンだけでも良い。その選択肢の多さが、子どもたちの居心地の良さにつながっていると思います」。

「やらされる学び」から
自分で選ぶ「学びたいこと」へ

城座氏:「もう一つ、大きな変化として挙がったのが、『学びを自己決定できるようになった』ことです。子どもたちの声を聞いていると、それまで『やらされてきた』、『ついていけなくて疲れてしまった』という感覚を持っていることが少なくありません。そこで、まずは自分の好きなことや得意なことを見つけ、興味・関心から学びに入れるようにしています。

例えば、『学問ひみちゅーぶ』というライブ講座があります。さまざまな分野で働く人が講師となり、自分の仕事や世界の面白さについて話してくれる講座です。『みらいキャンパス』では、アーティストやデザイナー、建築家、起業家など、多様な分野で活動する人と一緒に探究を進めます。

さらに、自分自身を見つめ、自分らしさを知るための『自分発見講座』もあります。例えば中学生向けには、アートを通して自分を理解するプログラムがあります。さまざまな絵のパーツを組み合わせながら『自分らしい部屋』をデザインし、『なぜこのものを置いたのか』『なぜこれが好きなのか』を対話していきます。すると、『自分はこういう空間が心地よいのだ』『こういうものが好きなんだ』と、自分自身への理解が深まっていきます。自分の中にはいろいろな自分がいるという考え方から、自分の中に住む“小人”を描き、名前をつけるようなワークもあります。アートを通して、自分の内面を言葉や形にしながら、自分自身をメタ認知していくのです。まず、『学ぶって楽しいかもしれない』『自分の興味から始めれば、もっとやってみたいと思える』というポジティブな感情をつくることを大切にしています。

最近では、デジタルクリエイティブ分野の講座も始めています。ベネッセのグループ系列である『デジタルハリウッド』のコンテンツを活かしたイラストや漫画の講座では、プロの講師から直接フィードバックを受けながら作品を制作しますが、募集するとすぐに席が埋まりました。こうした『学ぶことって面白い』という感覚があったうえで、教科学習にも入っていきます。ベネッセには、進研ゼミや学校向け教材など、長年蓄積してきたさまざまな教材や学習ノウハウがあります。学年に関係なく、自分がつまずいたところまで戻って学び直す教材もありますし、同じレベルの問題を何度も繰り返しながら、小さな達成感を積み重ねることができる教材もあります。

大切なのは、『今の自分に合った学び方』で、『自分に必要な学び』を、自分のペースで進めることです。その経験を積み重ねることで、『学ぶことは楽しい』『自分のペースでやれば良い』という自信につながっていくのだと思います」。

クラス担任と「赤ペンメンター」が寄り添い
大人を信じられる関係をつくる

城座氏:「そして、とても重要なのが、『寄り添ってくれる人がいる』ことです。学院にはさまざまな大人が関わっていますが、特に大切なのがクラス担任と『赤ペンメンター』です。ベネッセには、進研ゼミで長年、通信添削を担当してきた『赤ペン先生』がいます。その中でも特に子どもたちに寄り添う力や思いを持っている人に、学院生のメンターをお願いしています。

学習の進捗を理解したうえでアドバイスしたり、悩みを聞いたり、ちょっとした嬉しい出来事があれば一緒に喜んだりする。少し表現はくだけますが、『隣の家のおばちゃん』のように、気軽に話せる存在です。学校に行きづらかった経験などから、人との関係で傷ついた気持ちを持っている子どもにとって、一人でも二人でも良いので『この大人なら信頼できる』と思える関係を築くことは、とても大切だと考えています。

『担任が声をかけてくれるのが嬉しい』、『親身になって相談に乗ってくれる』、『一人ひとりの個性を尊重してくれる』、そう感じられるようになることで、『大人は信じても良い存在なのかもしれない』という感覚が少しずつ芽生えていく、そうした関係を育むことを意識して、日々のコミュニケーションを重ねています。

子どもたちが学院生活を『楽しい』と思えていることが大切ですが、その『楽しい』の中身は一人ひとり全く違います。楽しみ方も違います。だからこそ、それぞれが『ここは自分の居場所だ』と思える環境をつくることが大事なのだと思います」。

学校と家庭、その「はざま」にあった
新しい学びの場をつくる

石戸:「赤ペン先生も、赤ペンメンターへと役割がシフトしているのだなと、感慨深くお話を伺っていました。ベネッセといえば、長年にわたり学校教育を支援する一方で、進研ゼミなどを通じて家庭での学びも支えてきた企業です。今回、自ら通信制サポート校を始めるという決断には、さまざまな議論があったと思います。どのような背景があったのでしょうか」。

城座氏:「ベネッセは、長い間、大きく二つの側面から子どもたちを支えてきました。一つは学校向けのサービス。もう一つが、『進研ゼミ』や『こどもちゃれんじ』を中心とした家庭向けのサービスです。学校側から子どもを支援する一方で、家庭では子どもや保護者の立場に寄り添いながら、一緒に子育てをするような思いで教材やサービスをつくってきました。私自身も、その両方の分野でサービス開発に携わってきました。

その中で、不登校の子どもが増えていることを比較的早い段階から感じていました。学校に行きたいけれど行けない子どもにとって、自宅で進研ゼミを使って学習できるだけでは十分ではありません。人とコミュニケーションする機会が必要だったり、誰かに認めてもらう経験が必要だったりする。

学校と家庭の、その、はざまに必要なものがあると感じていました。探究学習や語学、プログラミングなどの学びの場にも、不登校や発達特性のある子どもたちが参加してきます。そうした子どもたちと接する中で、『この子たちに本当に合った学びの場をつくることは、本来、学びとはどうあるべきなのかという理想像を考えることでもあるのではないか』という思いが強くなりました。

学校教育だけを変えるのでもなく、進研ゼミだけを進化させるのでもない。子どもを取り巻く理想的な学びの環境そのものを形にしたほうが、未来の教育を考えやすいのではないか。そんな議論から、学院づくりが始まったと記憶しています」。

学校に行けないから選ぶのではない
「自分に合うから」通信制を選ぶ時代へ

石戸:「通信制高校やサポート校は近年、大きく増えています。高校生の10人に1人が通信制高校に通っているというデータもあると思います。ベネッセは日本最大級の教育データをお持ちですが、なぜここまで不登校の子どもが増え、通信制高校やサポート校へのニーズが高まっているのでしょうか。また、子どもたちは10年前と比べて変化しているのか、どのように分析されていますか」。

城座氏:「学校教育だけではなく、私たちがこれまでつくってきた教育サービスにも当てはまることだという反省を込めてお話しすると、長い間、日本の教育には『みんなが同じことを、同じペースで一斉に学ぶ』という前提がありました。

同じスタートラインから走り、早くゴールに着いた人、高い点数を取った人が評価される。高度経済成長期には、その仕組みが国力を高めるうえで一定の役割を果たしていたのでしょう。高い点数、高い偏差値を取り、良い大学に入り、良い会社に就職することが、いわば幸せへの王道とされてきました。

しかし、この20年、30年の間に、その一本道を走った先に必ずしも幸せがあるわけではないと、大人たちも気づき始めたのではないでしょうか。子どもたちも、『このやり方では苦しい』と声を上げるようになりました。コロナ禍を経て、学校へ行かないという選択についても以前より表明しやすくなりましたし、大人も在宅勤務など、自分に合った働き方を選ぶようになりました。『自分に合った学び方や働き方を選んでも良い』と言いやすい社会になってきた面もあると思います。全員を同じ枠にはめ、同じことをさせるという仕組みは、もう成り立ちにくくなっています。これからAIによる大きな変化が進む社会では、なおさら一人ひとりが個性を発揮できる環境が必要です。

本来、子どもは目を輝かせながら、自ら目の前のことを学び取っていく力を持っている。私たちはそう信じています。ただ、その力を発揮できるはずの学びの環境が、今の子どもたちに合わなくなっている部分があるのではないかと思います」。

石戸:「実際に通信制高校を選ぶ子どもの中には、不登校だからという理由だけでなく、自分のやりたいことに時間を使いたいという思いから、積極的に選ぶ子も増えていると思います。ベネッセ高等学院ではいかがでしょうか」。

城座氏:「大多数ではありませんが、積極的な理由から選ぶ子どもも確実にいます。感覚的には1~2割くらいでしょうか。例えば、『起業したいので、ベネッセで新しい事業が生まれるところを見たい』という子もいます。普通の学校に通うと通学や学校生活に多くの時間を使うことになりますが、自分の時間を自分で組み立てて、プログラミングやゲーム制作、映像制作やアルバイトなど、自分のやりたいことに時間を使いたいという子もいます。

一方で、最初は『前の学校が合わなかった』というネガティブな理由で入ってきても、学院で過ごす中で変わっていく子もたくさんいます。『こんなに自分でやりたいことを決めて良いのだ』と気づき、周りを見れば、自分の好きなことに夢中で取り組んでいる子がいることも分かってきます。そこで『自分はこれが好きだったんだ』と気づいて、そこから一気に進んでいく、そうしたポジティブな変容をたくさん見てきました」。

最初の一歩は
「ここにいても良い」と思えること

石戸:「9割くらいは、必ずしもポジティブな理由だけでベネッセ高等学院を選んだわけではないということかと思います。そうすると、何らかの傷つきやつらい経験を抱えて入学してくる子どもも多いと思います。そうした子どもたちが再び学びに向かうまでには、どのような段階があるのでしょうか。また、そうした子どもたちに対して、どのような支援をされているのかについても伺ってよろしいでしょうか」。

城座氏:「子どもたちに起きる変化には、いくつもの段階があり、グラデーションのようなものだと思っています。最初に大切なのは、『自分はここにいても良い』と思えることです。自分を受け止めてくれる大人がいる。『この人の前なら自分を出しても大丈夫』と子どもが感じることができるかどうか、それが大切です。最初は自分自身を否定的に捉えている子も少なくありません。それでも『自分にもこんな良いところがある』と一緒に見つけてくれる大人や仲間がいることが分かると、少しずつ自分を受け入れられるようになります。それを具体的に言葉にしていくと、『自分にはこんなところがある』、『これが好きだ』、『これが得意だ』ということに、よりしっかりと気づきます。

そこまで来ると、学びでも遊びでも、自分から何かをやってみようとする力がわいてきます。友だちをつくったり、学びに向かいはじめたり。その頃には少しずつ自信の土台もできています。『失敗しても担任は笑わない』、『赤ペンメンターは相談に乗ってくれる』、『仲間も自分を認めてくれる』という安心感があるから、学習にも入りやすくなります。

私たちは、一人ひとりが今どの段階にいるのかを丁寧に見ながら、対話をして、次に何をすれば良いかを一緒に探していきます」。

石戸:「全員が同じようなペースで、その段階を進んでいくわけではないですよね」。

城座氏:「もちろん違います。立ち直るペースも、何かに興味を持つスイッチが入るタイミングも、一人ひとり違います。精神的な状態も、家庭環境も、発達段階も違います。これまで『この時期までにはこうならなくてはいけない』、『ここまで改善しなくてはいけない』ということに苦しめられてきた子どももいるかもしれません。だから私たちは、そうしたことをできるだけ求めないようにしています。

今がそのタイミングだと思えば一緒にスイッチを入れる。まだ今ではないと思えば、『今は自分の根っこを温めている時期なんだ』と考える。みんなが元気に活動していることだけが良い状態ではありません。静かに周りを見ているだけの子もいる。そういう子も含めた全体を、どう受け止めながら場をつくっていくかが大切だと思っています」。

子どもを信じ、寄り添う
ベネッセが培ってきた教育の力を注ぎ込む

石戸:「子どもが学校へ行けなくなると、その状況をなかなか受け入れられない保護者もいると思います。そうした保護者へのサポートは、どのようにされているのでしょうか」。

城座氏:「保護者の存在はとても大きいと思います。私たちも一生懸命、子どもたちに関わりますが、日常の環境を最もつくりやすいのは家庭です。ですから、保護者と私たちが子どもを見る目線を合わせていくことは、とても重要です。保護者会を開いたり、子どもたちの活動を共有したり、学院から情報を届けたり、担任と保護者が直接相談したりと、さまざまな方法でコミュニケーションを取っています。

『この子には伸びる力があります。ただ、今はこういう時期だと思います』、『今日は、こんなに楽しそうな姿を見せてくれました』というように、私たちが実際に見ている子どもの姿を保護者に伝えていきます。すると保護者も少し安心して、私たちを味方だと思ってくださったり、子どもを見る目が穏やかになったり、受け止める幅が広がったりすることがあります。このように『子ども観』を保護者のかたと共有しあうことが大切です。

もちろん、それですべてがうまくいくわけではありません。そこはお互いに時間をかけ、少しずつ理解し合っていくことが必要だと思っています」。

石戸:「通信制高校やサポート校が増える中で、ベネッセ高等学院ならではの特徴は、どこにあるとお考えですか」。

城座氏:「一つは、ベネッセという会社そのものに、『子どもに寄り添う』という文化があることだと思います。私は長くベネッセで働いていますが、社内の議論は本当に『子どもにとって何が良いのか』ということで埋め尽くされています。どうすれば、より良い学びを届けられるのか。子どもたちに、どんなふうに育ってほしいのか。そうした願いを持ち、子どもに寄り添う力のある人たちが学院をつくっています。そこに共感する人たちが、スタッフとして次々に加わっています。

さらに、ベネッセがこれまで学校教育や家庭学習の中で培ってきた、さまざまな教育サービスやノウハウがあります。もちろん、それを全部子どもに提供すれば良いわけではありません。全部与えたら、かえって子どもは疲れてしまいます。その中から、その子に今必要なものを選び、組み合わせながら、本当の意味での最適な学びを探していく。

理念を掲げるだけでなく、それが本当にその子らしい未来や進路につながっているのかを、一人ひとりを丁寧に見ながら考えていく。これまで培ってきた資産を注ぎ込みながら、子どもたちと一緒に学びの環境をつくっていくことが、私たちの強みだと思っています」。

多様な学びが育つ「森」へ
教育そのものが変わる未来を目指す

石戸:「通信制高校やサポート校が広がることは、多様な学び方を認める社会につながる一方で、既存の学校は変わらないまま、そこに適応できない子どもだけが別の場所へ移るという構造になる可能性もあります。つまり、多様性に合わせて学校を増やし続けるのか、それともすべての学校が変わっていくのか、という議論もあるのではないかと思います。この点について、どのように捉えていますか」。

城座氏:「今は、さまざまな多様性を受容できるような、懐豊かな『森』をつくり始めた、造成期のような時期なのではないかと思っています。10年、20年、30年後には、教育の世界そのものが大きく変わっていてほしい。個人的にも、会社としてもそう期待していますし、その中でベネッセとしての役割を果たしていきたいと思っています。

今、私たちのような新しい学びの場がさまざまなところに生まれています。いわゆるオルタナティブスクールなど、子どもが多様な選択肢から自分に合った教育を選べる環境が増えています。それぞれが別々に発展するだけではなく、お互いの良いところを見ながら影響し合っていくのだと思います。

民間から新しい動きが生まれ、その一部を既存の学校も、テクノロジーなども含めて取り入れていく。全体が切磋琢磨しながら、より豊かな『森』になっていく。そんな成熟した教育環境が、将来見えてくるのではないでしょうか。そのために、私たちができることをしっかりやっていきたいと思っています」。

石戸:「ニューロダイバーシティプロジェクトでは、教育だけに閉じず、社会全体をリデザインし、新しい当たり前をつくることを目指しています。学校が変わったとしても、企業や社会が変わらなければ、多様な人たちが自分らしく生きられる社会にはなりません。そうした社会を実現するために、企業には何が求められると思いますか」。

城座氏:「企業だけではなく、社会全体として、『こういうものが良い』『こういう生き方が成功だ』という目指すべき世界像が、これまで比較的一律だったのだと思います。これから大切なのは、私は『受容体を増やす』ことだと思っています。

多様性を受け入れられる環境を社会に増やすことはもちろんですが、一人ひとりの中にも、『これもありだし、それもあり』と思える受容体を増やしていく。『みんなの脳世界』のような場を体験することも、その一つだと思っています。自分がさまざまな立場やコミュニティに属する経験を持つ。ある場所では自分がマジョリティになることもあれば、別の場所ではマイノリティになることもある。自分の強みを発揮することもあれば、自分の弱い部分を誰かに支えてもらうこともあるでしょう。社会の中に多様性があるだけではなく、一人の人間の中にも、そうした多様な経験が織り込まれている、そんな社会をつくっていけると良いと思います。

企業も、『これからどんな未来をつくりたいのか』というグランドデザインを描き、その中で自分たちのビジネスがどんな役割を果たすのかを考える必要があります。今までの世界の延長線上を目指すのではなく、これからの未来像を描いたとき、自分たちに何ができるのか。そこから考えれば、自然と『いろいろな価値観を持つ人がいたほうが良い』ということにもつながっていくのではないでしょうか。

誰かから『こう変わりなさい』と言われても、人や企業の文化は簡単には変わりません。自分たち自身で、これからの未来をデザインしていく。世の中が大きく変化している今、企業にもそうした姿勢が求められていると思います。ベネッセも、そのことを大切にしながら取り組んでいきたいと思っています」。

石戸:「私たちも『みんなの脳世界』の先に、さまざまな人がそれぞれの強みや弱みを共有しながら、一人ひとりが自分らしく力を発揮できる『超多様』な組織や社会をつくることに挑戦していきたいと考えています。今回の出展をきっかけに、今後もさまざまな形でご一緒できればと思います。本日はありがとうございました」。