REPORT

あなたの“チクチク”は私の“フワフワ”? 
触覚の多様性を「測る」ことで見えてくるニューロダイバーシティ
──B Labの触力検査プロジェクトが始動

2025年5月28日


B Labが主催する「ニューロダイバーシティプロジェクト」は、脳や神経の多様性を尊重し、誰もが自分らしく力を発揮できる社会の実現を目指しています。この度、新たな取り組みとしてB Lab所長の石戸奈々子をはじめ、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科 南澤 孝太先生、名古屋工業大学 田中 由浩先生らとともに「触力検査プロジェクト」を始動しました。触力検査とは、触覚の感度を測定するための検査です。触覚過敏や触覚鈍麻といった触覚特性を早期に発見することで、教育現場や職場、日々の生活シーンでの適切かつ効果的なサポートを可能にし、日常生活の質を向上させることを目指しています。B Labでは、「触力検査プロジェクト」の推進にあたって重要となる「触力検査表」の作成のため、参加者を募集するイベントを2024年10月4日に開催しました(▲写真1▲)。当日は、参加者に、様々な強さ・周波数の振動を提示して振動の感度を測る「触力検査装置(▲写真2▲)」のプロトタイプを使った触覚感度の測定を体験していただきました。その後、配布したワークシートに、好みの触感や苦手な素材、日常生活での困りごとなどを振り返って記入していただきました。さらに、講師陣との質疑応答の時間を設け、触覚の個人差や素材との関係、身体感覚とのつながりについて理解を深める機会となりました。本稿では、このイベント内で交わされた質疑応答の内容を中心に、触覚の多様性について探っていきます。

(▲ 写真1 幅広い年齢層が集まった触力検査プロジェクト▲)
(▲ 写真2 触力検査装置を用いた検査の様子▲)

<登場者>

●慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD) 教授/JSTムーンショット目標1「Cybernetic being Project」プロジェクトマネージャー 南澤 孝太先生

●名古屋工業大学 教授/稲盛科学研究機構(InaRIS) フェロー 田中 由浩先生

●慶應義塾大学 大学院 メディアデザイン研究科(KMD) 教授/B Lab所長/一般社団法人超教育協会理事長/CANVAS  石戸 奈々子(モデレーター)

触覚は人によっても部位によってもこんなに違う
質疑応答から見えてきた多様性

石戸:「参加者のみなさまから、さまざまな質問やご意見、感想などをいただきました。一つひとつ、『触力検査プロジェクト』の南澤 孝太先生、田中 由浩先生にお聞きしていきたいと思います。まずは、「身体の部位によって過敏に思うところとそうでもないところがある」ということを書かれている方がいます。これは南澤先生にお聞きします。感覚の鋭敏さは、身体の部位によって変わることがあると理解してよいのでしょうか」。

南澤先生:「あるだろうと思います。元々、身体の部位によって人の感覚の閾値は違います。わかりやすく説明すると、指先では、わずか1ミリ程度の幅でも離れていれば、2つのものが触れているのを『2つ』と感じ取ることができます。ところが背中では、数センチから5センチ程度の幅で、ようやく2つのものが触れているとわかるのです。身体の部位によって『どのくらいの解像度』で感じることができるのかが違うのですね。背中だと平均4~5センチ、指だと平均2~3ミリの幅で感じ取るというデータがあります。身体の部位によって皮膚の厚さも違うので、おでこなど皮膚が薄い部位は痛みを感じやすいということもあります」。

石戸:「なるほど。『指で触っても平気だけど、首で触るとダメなものがある』と書いている人もいます」。

南澤先生:「多分、皮膚の薄さなどが影響していると思います。指は普段からいろいろなものに触れているので、感じ方の『レンジが広い』と言えます。一方、首は皮膚が薄いので感じ方が違ってくるのでしょう。田中先生、背中は一般的には鈍感と言われていますが、ある特定の刺激に対しては、敏感になることもありませんか」。

田中先生:「はい。一般的に技能者、いわゆる職人には高齢な方が多いですよね。高齢になると触覚は少しだけ鈍くなります。それでも、職人が指先でほんのちょっとした違いを感じ取ることができるのは、ある種のフィルターができあがっていて、特定の特徴的な刺激にはすごく敏感になり、脳が信号処理をするからだと思います。指先では触れることができても、首では触れられないというのは、もしかすると、その人の中にあるフィルターができていて、ある特定の刺激について脳が検出するようになっている可能性もあります」。


石戸:「アンケート項目で『日常的にどのような触覚が好きですか』を聞いています。みなさん、オノマトペで回答しています。チクチク、たらたら、ベタベタ、フワフワ、ツルツルなどです。このオノマトペで示された触覚は、高周波数と低周波数で分けると、どのあたりの周波数なのでしょうか。今日の検査でも高周波数の感覚に敏感だった人、低周波数には鈍感だった人がいます。オノマトペで表現されるということは、どのくらいの周波数の感覚が自分にとって心地よいか、不快かがわかると思います。例えば、チクチク、サラサラはどうですか」。

南澤先生「サラサラは大体600ヘルツ、700ヘルツぐらいの成分が多いかなと思います。先ほどの触力検査の試作装置で体験いただいた振動中では最も高い周波数が400ヘルツで、それよりもう少し右側がサラサラになります。ジーパンに触れたようなザラザラした感覚が100ヘルツくらいかな」。

石戸:「ちょっと違う感覚でベタベタはどうですか」。

南澤先生:「ベタベタは、張り付いている感覚を示します。指を離そうと引っ張っているのに、まだくっついているという感覚が残るものがベタベタです。逆に言えば、先ほどの装置で指を離そうとしている時に振動を出すとベタつく感じがします。運動と振動とのかけ合わせです」。

石戸:「ということは、ベタベタというのは必ずしも今回、測っていただいた感覚だけでは説明しきれない感覚ということですね」。

南澤先生:「先ほどみなさんには体感いただいた、紙コップを逆さに持ったときでも、人によって感覚は違います。自分が何に触れているか、どういう状態で触れているか、どう手を動かしているかといった情報を常に頭の中で処理しているのですが、いま試作している触力検査だと手を止めて振動を感じているで、そういった運動と感覚の連携の部分は将来的に取り組むとして、まずは感覚の感度を測ろうというところです。」。

田中先生:「感覚の捉え方にも、多様性があります。ザラザラしたものを触った時に、デコボコしていることを捉えて『ザラザラしている』『デコボコしている』と答える人もいれば、抵抗の摩擦が強いことを感じ取って『すごく粗い』などと答える人もいます。しかも、その表現の仕方は人によって違い、『デコボコを強く感じるAグループ」、『摩擦に意識が向くBグループ』というように明確に分けられるものではありません。『デコボコを感じる』『デコボコも感じるが少し摩擦も感じる』「デコボコも少し感じるが摩擦をより強く感じる』など、空間のデコボコと摩擦の振動を感じる違いによってグラデーションのようになっています」。

南澤先生:「平面における上下の動きの感覚か、水平に動いたときの感覚かの違いですかね」。

石戸:「チクチク、トゲトゲはいかがでしょうか」。

田中先生:「これらは、本日、紹介した自由神経終末が関係しています。この自由神経終末は痛み、痒み、温度に反応します。チクチクは少なくともこの自由神経終末が関与していることはわかりますが、よく分かってはいない状況です。刺激があるかないかには強く反応し、その刺激の量によって、それが痛みや痒みになります。チクチクも人によって痛いチクチクもあれば、むず痒いチクチクもあります。空間的に針が刺さった感じもチクチクという感覚になります」。

南澤先生:「今回の触力検査はマイスナー小体とパチニ小体という、皮膚の中にある「振動」を感じる細胞を対象としているので、チクチク感は対象としていなかったのですが、例えば温度と痛みの関係性について考えると、温度に敏感だと痛みに敏感なのか、それはまた別の話なのかという視点ではどうなっているのでしょうか」。

田中先生:「痛みについては、じつはすごく難しいのです。私もそこまで詳しくはないのですが、人によって選択性があるという話を聞きました。先だって感覚障害のトークセッションに一緒に参加したある先生が『触覚の神経と痛みの神経はもともと別だが、過敏の人はそれらが脊髄の中で繋がってしまっていて本来なら触覚だけのはずが痛みに転じてしまう』という話をされていました。例えば、『痛いの痛いの飛んでいけ』と言いながら手のひらで痛い箇所をさするような仕草をすることがありますが、あれは痛みの神経を触覚でマスクしているのです。痛みと触覚では触覚の方が優位なので、さすることで痛みの神経をマスクできるのです」。

南澤先生:「痒みでも同様のことが言えますね。痒いところを上から痛みで覆ってしまうと、痒みより痛みが優先されるので痒みがなくなったように感じます。痒いところに冷たいものを当てても痒みをマスクできます。つまり、別の刺激を与えると、その前の感覚が消えたように感じるということなのですが、それで『誤動作』してしまうのですね」。

田中先生:「その通りです。そうなると、単に触れているだけなのに、強い刺激に感じてしまうこともあるのではないかと考えられています」。

綿100%なら着られるけどアクリルはダメ
素材と触覚の繊細な関係性は?

石戸:「このプロジェクトでは、痛みと他の感覚との関係性の解明や理解にこだわってきました。というのも「痛い」と表現する人が多いからです。

南澤先生:「痛みの触覚検査は技術的には作れるのですが、難しいのは『痛い』ということです。じつは『痛みの錯覚というのがあって、暖かいものと冷たいものを真横に並べてその境界に触れてもらうとかなり強い痛みを感じます。実際ものすごく痛いのですが、身体を傷つけているわけではない。。いわば『安全な痛み』でコントロールもできるはずなのですが、温度から生まれるその痛みと、例えば衣服のタグが首筋にあたったときのチクチクする痛みが同じ痛みなのかどうかわからないなど、まだ難しいところがあります」。

田中先生:「医学的な診断で使われる痛みの検査では、電気刺激を与えて、感じている痛みと同程度の強さを評価する方法があると聞いていますね」。

石戸:「私がこのプロジェクトを通じて考えていきたいことは、どういう刺激を痛みと感じるかどうかといったことではなく、例えば多くの感覚過敏の子供たちが『この洋服は痛い』と表現したときに、その痛みをもう少し解像度を高めて分解し、整理していくと何かしらの対処方法が見えてくるのではないかということです。そこを解明していきたいのです。

今回も、衣服の素材に関して書いていらっしゃる方がいらっしゃいました。綿100%の衣服しか着られないそうです。じつは、私がもう一つ、ぜひ取り組みたいと考えているのが、この素材との関係性の解明です。感覚過敏があり、どの服を選べばいいのか困っていらっしゃる方がたくさんいらっしゃいます。例えば、この周波数帯の刺激にこういう反応をする人であれば、こういう布の衣服が心地よいかもしれませんといったことが分かるようになると大きな助けになると思います。

現時点でわかっていること、わかっていないことあることも多々あるとは思いますが、『綿100%の衣服しか着られない』という人に対して、なぜそうなのか、感覚過敏の人たちにとって着やすいかもしれない素材はどういうものかなどについて、お二人にご意見を伺いたいと思います」。

南澤先生:「これまでには、紙おむつの触覚の調査をしたことがあります。じつは各社の製品ごとに異なる戦略があり、『濡れてもサラサラ』を目指している製品と『フワフワ感』を目指している製品とで大きく分かれました。赤ちゃんにもサラサラが好きな子もフワフワがいい子もいるでしょうから、お母さんからすると『うちの子はこれだといいのに、これだと嫌がる』というのがあると思います。フワフワが好きな子は、やはりサラサラの紙おむつは少しチクチク感じるのでしょう。一方でサラサラが好きな子にとっては、フワフワは蒸れたときにベタつきが気になってしまう。

同様のことが衣服にも言えると思います。綿100%であっても綿の織り方によって触覚も変わってくるでしょう。例えば、アクリルが入っているウールの衣服が嫌だという人は、おそらく硬い繊維であるアクリルのチクチクを感じているのだと思います。綿100%であっても、硬い綿とそうでない綿といった繊維の硬さや織り方が大きく影響してくると思います」。

田中先生:「私は、布の計測をしています。工業製品の布の検査は、ピアノ線をつけた指の形をした器具で布をなぞり、どれぐらい振動しやすいのか、どれくらい抵抗があるのかを調べます。ピアノ線はすごく硬いのですが、我々が触れるのは柔らかい皮膚です。そのような違いもあって、現状、布の触感は数値化されてはいません。

布に触れると触れたときに感じる刺激は、布が硬い繊維であるほど高周波になります。衣服を着ていて、それに肌が触れるなどの場合には、繊維が硬いと定期的に同じ振動が入って来るので、さまざまな周波数に振動するのではなく、定期的に入って来る特定の周波数に振動するようになります。そうしたことから、例えばポリエステルなど硬い素材の衣服を着ると特定の周波数の刺激が起こるようになり、不快になると考えられています。それに対して、綿はある程度、周波数帯が幅広く、しかも自然素材だからその周波数も均一ではありません。特定の周波数の刺激が常に繰り返されるような状態とはならず、全体的に幅広の周波数がならされるような状態です。そこが大事なポイントです。ようは、人の皮膚との相性が良いこと、そこが大切なのです」。

南澤先生:「一般的な原理として、ある周波数だけが高い場合、一定以上になるとすごく感じてしまうという傾向があります。自然素材の良いところは、自然素材なので繊維の太さや硬さが一定ではなく、バラつきがあることです。だから同じ周波数帯域の刺激が集中して発生するのではなくバラつきがでるのです。自然素材の良さの1つは周波数が分散していることだと言えるでしょう」。

田中先生:「もうひとつは、みなさんに触っていただいた『ベルベットハンドイリュージョン』の錯触の例があります。この錯覚は、金網を挟んだ両手を動かすと、両手の間にベルベットのような心地の良い感覚がするもので、他人と手を合わせても発生します。心地の良さの要因の一つに手を合わせていることが考えられます。なぜかというと、触った時に温度変化を感じ取りにくいからです。私たちは、モノに触れたときに自分の皮膚の温度がどれぐらい変わったのかによって冷たいか暖かいかを判断しています。同じ室温にある発泡スチロールと金属に触れたとき、熱の伝わる速度は金属の方が早いので冷やっと感じるのです。人肌同士ではあまり温度差がないので、境界面がはっきりしないのです。

また、人の肌同士ですので押し合いへし合いが生じます。相手が硬いと自分が変形し、相手が柔らかいと埋没していきます。境界が曖昧で圧力変化が起こることが柔らかい心地よさの感覚に寄与していると考えています。綿は、こうした点で類似性があり比較的、人の肌との相性が良いのです。我々の用語では『インピーダンスマッチング』と呼びますが、そういった特性がある素材だと言えるでしょう」。

振動覚と身体のバランス
感覚と運動能力の関係性を考える

石戸:「最後にみなさんに伝えたいことを表現するために2つ質問をします。まず、みなさんから質問や意見が多かったのは、温度と痛みなど触覚との関係です。もう一つが圧力と触覚との関係です。締め付け感を覚えるといったことです。触覚といっても色々あるという中で、今回は『振動』との関係を調べたということで、温度との関係性、圧力との関係については、今回、測ってないという理解で正しいでしょうか」。

南澤先生:「その理解で正しいです」。

石戸:「ただし、なんらかの関係性はあるということですか」。

南澤先生:「それも測定してみないと正確にはわかりません。やはり、熱いや冷たいと言った温度に敏感もあるでしょうし、痛みに敏感、押し、つまり圧力に敏感というケースもあるでしょう。最終的には、計測器に触れていただいたら網羅的に測れるような測定法を考えていき、1度測ると全てが分かるようになればベストだと思っています。

ただし、寒いときや暖かいときに感覚、触覚が敏感になる、変わるというのは、この温度に敏感ということとは別のことです。ここについては田中先生から説明していただきます」。

田中先生:「はい。温度に依存して感度が変わるもの、あまり変化しないものがあります。マイスナー小体などは、あまり変わりませんが、その一方で温度が下がると特定の受容器だけが反応しやすくなることもあるのです。それがまた自分としては不快に感じる要因になっていることもあるのです」。

南澤先生:「寒いと痛みを感じやすくなるといったこともありますね」。

石戸:「この『触力検査プロジェクト』でも温度をきちんと固定して測らなければならず、また、今後はより網羅的に測らなければならないということかと思います。私はニューロダイバーシティプロジェクトを推進している立場として、お二人の先生方と『なぜ振動だけしか測らないか』という議論を何度もしてきました。その時、お二人からが『いきなりフルカラーテレビはできない。まず白黒テレビを作ろう』と言われたのですが、私の気持ちとしてはフルカラーのテレビジョンを早く作りたいです。ただし、それは次回以降の『触力検査プロジェクト』の課題にしましょう。

また、『なぜ振動だけしか測らないのか』という議論の中で、例えば歩行においても振動の感覚がすごく大事だという説明を聞きました。今回、みなさんからの質問や意見の中でも『電車の揺れや振動で姿勢を保持するのが重い感じがする』というのがありました。平衡感覚を保つことと『振動覚』との関係について気になります。いかがでしょうか」。

田中先生:「私たちの運動は感覚と密接です。さまざまな感覚で環境や自分の身体を認識できているからこそ、うまく身体を動かせるのです。動こうという運動指令があり、動き出すと実際に環境と身体が相互作用して、さまざまな感覚が刺激となって返ってきます。視覚や聴覚にも返ってくるし、三半規管などにも返ってきます。同時に、頭の中に『遠心性コピー』という『自分の体はこれからこう動く』というモデルが作られます。これによって、動くことでとこういった感覚が返ってくるという予測ができるようになります。実際に動いて返ってきた感覚と、予測した感覚を比較して、『自分の身体の動かし方は思った通りだ』と確認しながら動いています。例えば、歩行していて『少し上り坂になっているから、思ったよりも力がいるな』となると、重力を感じてそれに合わせて力を出すという指令がでるのです。

じつは、私たちがモノを掴んだときにつぶさずに持てるのもこの原理です。例えば、脳卒中の方は感覚が鈍くなります。モノを掴むときにつぶしてしまったり、つぶしそうになって緩め過ぎて落としてしまったりということが起こります。なので、感覚が過敏になっていたり、環境が急に変化していたりすると、姿勢保持や平衡感覚を保つのが難しくなるのかもしれません」。


南澤先生:「ただし、その状態に慣れている場合、その状態に合わせて遠心性コピーのモデルができるので、見た目だけではわかりません。感覚や環境の変化が一定の閾値を超えると、姿勢保持や平衡感覚を保てなくなり、それが、じつはお年寄りの方々が急にモノにつまずいてしまう、転びやすくなってしまうのと関連があるではないかと最近、指摘されています。

以前は筋力が落ちているのが原因だと言われていましたが、それなら筋力を上げれば良いのかというと、そうとも言い切れません。『感覚が落ちている』中で筋力だけを上げても、うまく動かせないでしょう。最近、野球のピッチャーがピッチング能力を高めるために、微妙に異なるいろいろな触り心地の素材をさわり比べていわば『触力』を上げるトレーニングを取り入れているようになってきているようです。触覚の感度を上げることで運動能力が高まるのではないかという、感覚と運動との関係性の研究は、まだ歴史が浅いのです」。

石戸:「ありがとうございました。この『触力検査プロジェクト』における第一回目の触力検査を『なぜ振動からやらなければいけないのか』、私は当初、納得できなかったのですが、そのときに今のような説明、とくに平衡感覚に関するお話しを聞いて、振動から始めることの大切さが腑に落ちました。今日、参加いただいたみなさんの中にも、『なぜ振動に関する触力を測るの?』と疑問に思う人もいらっしゃるだろうと思い、その理由にご納得いただきたいと思い、最後にこの質問を入れました。

いかがでしたでしょうか。本日が初めての触力検査で、みなさんのイメージとは違うこともあったかもしれませんが、ニューロダイバーシティ社会の実現は、全員が当事者意識を持って一歩を踏み出すことにより実現していくものだと思っています。本日、被験者として体験してくださったみなさんも、もちろんニューロダイバーシティ社会の実現に大いなる貢献してくださいました。心より感謝申し上げたいと思います。今日はどうもありがとうございました」。