REPORT

お互いにアウトプットし、お互いに受け入れ合う
マインドを持っているような社会にしたい

2026年9月28日

B Labが主催する「ニューロダイバーシティプロジェクト」では、脳や神経の多様性を尊重し、誰もが自分らしく力を発揮できる社会の実現を目指しています。今回のニューロダイバーシティプロジェクト・インタビューシリーズでご紹介するのは、2026年の「みんなの脳世界」に初出展される株式会社WillShine 代表取締役 川本 一輝氏(▲写真1▲)です。視覚に障がいのある子ども・学生に特化したオンライン塾『ブイリーチ』の取り組みについて、B Lab所長の石戸 奈々子(▲写真2▲)がお話をお聞きしました。

▲写真1・株式会社WillShine 代表取締役 川本 一輝 氏▲
▲写真2・B Lab所長 石戸 奈々子▲

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視覚に障がいを持つ
「見えない、見えにくい」子どもたちに向けたサービスを提供

石戸:「本日は、次回の『みんなの脳世界』で初めて出展される株式会社WillShineの川本さんにお越しいただいています。早速ですが、今回の出展内容や普段の活動、授業の内容についてお話しいただければと思います。よろしくお願いします」。

川本氏:「株式会社WillShineでは、主に『ブイリーチ』という視覚に障がいを持つ、『見えない、見えにくい』子どもたちに向けたオンライン個別指導塾を展開しています。私自身、以前は弱視で現在では光の明暗がわかる程度の全盲です。私の経験も踏まえて、視覚に障がいを持つ方々、『当事者to当事者』という考え方をとても大切にしたさまざまなサービスを提供しているのが当社の特徴です。

▲写真3・オンライン個別指導塾「ブイリーチ」とは▲

ブイリーチは現在、4つのサービスを展開しています。メインとなるのはオンライン個別指導塾です。『見えない、見えにくい』視覚障がいのある当事者の先生が『見えない、見えにくい』子どもたちに向けて授業をしています。

▲写真4・メインとなる事業はオンライン個別指導塾▲

2つめがオンラインイベントです。例えば『先輩に聞いてみよう!』と銘打って、視覚障がいの当事者に向けたトークイベントなどを開催しています。前回は『合理的配慮のリアル』というテーマで、大学に通っている弱視の方にお越しいただいて、小中高生や保護者に向けたトークイベントを開催しました。

▲写真5・視覚障がいの当事者に向けたオンラインのトークイベントも開催▲

3つめがメディアの事業です。ブイリーチマガジンという名称のメディアですが、『視覚障害のある子ども・学生とその周囲の人に向けて、進学・学校生活・挑戦のヒントを届ける』メディアです。当事者に向けた記事として、「合理的配慮ってどういうことなの」「視覚障害と診断されたすぐのときって、どんな風に受け入れていくのかな」など体験に基づく記事やイベントレポートなどを掲載しています。

▲写真6・当事者に向けた記事として、各種体験のイベントのレポートを掲載▲

4つめは、ブイリーチキャンプです。視覚に障がいのある子どもたちの『勉強×自然体験』のキャンプです。

▲写真7・当事者に向けたオフラインイベントも主催▲

このように4つの柱で視覚障がいのある子どもたちに向けた事業展開をしています。

次に『みんなの脳世界』での出展内容を紹介します。まずは、このブイリーチキャンプの様子をお届けしようと考えています。一般の方々には視覚障がいのある子どもたちがどのように自然を体験したり、飯盒炊爨でカレーを作ったりしているのだろうかなど、なかなかイメージがつかないこともあると思います。そういった様子を見ていただけるようにしようと考えています。

もう一つは、『見えない、見えにくい』の『体験』です。ブイリーチでは『見えない、見えにくい』子どもたちにオンラインで個別指導をしています。普段、みなさんが『目で見て理解しているもの』、例えば図や立体、色、絵などを言葉で伝え合うにはどのような工夫をしているのか、図形や立体などを勉強するときに、どのような言葉の伝え方をしているのか、それらにフォーカスして、来場者の方々に体験していただけるような時間を作りたいと思っています」。

できないラインからスタートするのではなく
どうやったらできるかを一緒に考えてほしい

石戸:「ありがとうございます。素晴らしい活動の数々ですね。川本さんはもう大学を卒業されましたか」。

川本氏:「まだ在籍しています」。

石戸:「まだ学生でいらっしゃるんですよね。お忙しい中ですごいなと思いながら、改めてお話を伺っていました。いくつか質問させていただきたいと思います。まず、このような事業を始められた経緯について、川本さんご自身の体験も含めて教えていただけますか」。

川本氏:「2歳のときに網膜芽細胞腫、簡単に言うと視神経の癌によって左目を摘出し、右目も弱視の状態になりました。物心がついたときから片目しか見えなく、残りの片目も見えにくい中で生きてきて、しかも、周囲に同じように視覚に障がいのある人、同じような見え方の人がいなかったので将来のキャリアがすごく描きにくいと感じていました。

一般的なイメージとして、視覚障がいがある方は按摩や鍼灸の仕事に就くというのがあると思いますが、私自身は按摩や鍼灸の仕事には向いていないと思っていました。大学に進学して学び続けたいと思っていたのですが、地方にいるとそれもなかなか難しく、大学側も受け入れにくく、そもそも勉強自体をどう進めていけば良いのかも分からないことがありました。そこで、視覚障がいがあっても現役で大学に行き、活躍されている方々から直接学び、つながりが持てる場、同期生とのつながりが持てる場を作りたいと考えてブイリーチが生まれました」。

石戸:「ご自身の体験から、世の中には『こういう部分が不足しているのではないか』と始められたサービスかと思います。先ほど将来の選択肢についてのお話がありました。以前、川本さんのインタビュー記事で、『目が見えないからこうなんだ』という決めつけによって苦労された部分もあると拝読しました。実際に、視覚に障がいのある方が、より一層社会の中で輝くために、社会の側にこんなことが変わってほしいと思うことがあれば、教えていただきたいと思います」。

川本氏:「どの障がいにも言えると思いますが、まず、『できないライン』からスタートするのではなく、どうやったらできるかを一緒に考えて欲しいと思っています。そのためには、その障がいについて知っていただくことが大事です。今回の『みんなの脳世界』では、視覚障がいについて知っていただく工夫をし、どのように生活をしているのか、どのような思いなのかをまず知ってもらうのが第一歩です。このスタートラインを『障がいのある方にはできない』というスタートラインではなく、『どうやったらできるかな』を考えるスタートラインになると良いと常に思っています」。

石戸:「『みんなの脳世界』では、『テクノロジーによる個の拡張』というコーナーがあります。テクノロジーを活用することで、今までの『できない』を『できる』に変えていく、あるいは、自分のできる領域をさらに拡張していくことを目指しています。川本さんのサービスも、知識を学ぶことなど、学びの面で『できない』を『できる』に変えていくチャレンジと捉えてよろしいでしょうか」。

川本氏:「視覚に障がいがある当事者からしたら、『できて当たり前』のことでも、あまり良く知らない方からすると、『そんなことができるの?』ということもあります。例えば、『目が見えなくてもオンラインで勉強できるの?』というように。ですから『できない』を『できる』にするという側面と同時に、あまり良く知らない方々の認識をアップデートする取り組みになっているのかと思っています」。

石戸:「なるほど、たしかに図形や色など、視覚に頼らざるを得ない学びについて、『そんなことできるの?』『どうやっているの?』と思ってしまいます。『みんなの脳世界』の会場でのお楽しみなのかもしれませんが、とても興味があります。実際にどのように教えていらっしゃるか、もう少し伺ってもよろしいですか」。

川本氏:「例えば六角柱などの立体を教える授業では、『六角形が柱になっているんだよ』と言ってもイメージがつきません。点字の図で触っても立体になると難しいので分かりにくいでしょう。そんなときは『お菓子の『コアラのマーチ』の大きい箱は分かる?』と聞きます。多くの子どもたちが触ったことのある、あの箱は六角柱です。『チップスター』の箱は円柱です。このように、身の回りにある分かりやすいものやイメージがつきやすいもの、触れられるものに紐づけて教えていくことを意識して授業しています」。

石戸:「視覚に障がいがあるから『できない』のではなく、視覚に障がいがあっても『できる』のだというように、考え方を変えたいとおっしゃっていました。勉強面以外の取り組みについても、『できない』ではなくて『できる』へと考え方を変えていくために、どのような工夫をされているのか教えてください」。

川本氏:「ブイリーチキャンプでの取り組みがあります。8月のキャンプは、林間学校のように『少年自然の家』で、親元を離れて4泊5日で実施します。全く見えない子どもたちが集まってカレー作りやキャンプファイヤーなどをするとき、『見えないから危ない、できないよね』が先行してしまいます。

それをどうすれば良いか、やはりさまざまな小さな工夫の積み重ねです。例えば生活面では、ドアノブのところに紐を結んでおくという、そんな小さな工夫で迷いづらくなります。しっかりとオリエンテーションを先にやって、『トイレまでこうやって行くよ』などと基礎的なことを教えれば、『見えないと難しいよね』で終わらずに、彼ら彼女らが一人で動いていけるようになります。本当に、そんな小さなことの積み重ねだと思っています」。

石戸:「以前のインタビュー記事で、『例えば、消しゴムを落としてしまったときに周りの人はいつも拾ってくれる。でも、それを繰り返すうちに、周りがみんなやってくれるように思ってしまう。それこそが新しいハードルになってしまう』というお話をされていました。そんな視点から、目が見えない当事者の方々、そして周りの方々、それぞれに対してどのような意識変革が必要だとお考えでしょうか」。

川本氏:「視覚に障がいがあると、できないこと、難しいこと、危険なことはすごく多いと思います。それでも、当事者の方々は一人の人格を持った子どもです。視覚に障がいがある人である前に、一人の人間なのです。支援者とされる周囲の方々には、そのことをご理解いただき、当事者であるその子どもの年齢相応の対応をしていただけることが大切だと思っています。

消しゴムを落として拾ってあげるというのは、中学生の友達同士などでは普通のことです。拾ってもらったらお礼を言うのは当然だと思います。ただ、周囲の方々が手を差し伸べて、その場で危険を回避してあげれば楽なのですが、そうではなく探し方を教えてあげて欲しいと感じます。視覚に障がいのある方が困難に直面したとき、どうすれば解決できるかの方法、いわば『魚をあげるのではなく、釣り方を教えて欲しい』のです。

当事者の方々には、生活する中で周りの人はすごく優しく、自分に手を差し伸べてくれる、守ってくれる場合が多いかと思います。それでも、『自分に何ができるか』を常に考えていていただきたいと思っています。受け身でいるのではなく、自分も何かをするという能動的な姿勢を持ち続けて欲しいのです」。

学びの場を整えることが
統合教育をしていく上では大事

石戸:「今のお話は、視覚に障がいのある方のみならず、多様な方々がともに生きる社会を創っていくという視点でも、非常に大切ですね。

川本さん自身は徳島で生まれ育ち、幼少の頃はまだ特別支援学校がなかったと伺いました。そうした環境で育ったことで良かったことと、反対に苦労されたことがあるのではないかと思っています。日本の教育は分離教育の傾向が強く、そのことについては国連からも是正を求める勧告が出ています。一方で、いろいろな方々がともに学ぶ環境にも、分離された環境にも、それぞれ一長一短があると思います。川本さん自身は、これからのあるべき学びの環境として、どのような姿が理想的だと考えていらっしゃいますか」。

川本氏:「統合教育と分離教育はこの業界だと話題になるお話ですが、視覚障がいの立場から考えると『選べる』ことが重要だと考えています。分離教育の良いところは、特別支援学校で目が見えない中で生きていくための技が身につけられることです。専門的な先生もいらっしゃいますし、自立活動という時間もあります。そこで身につけられる『白杖でどう歩いていこう』『残りの視力をどう活用して文字を読もうかな』といったことを学校の時間で身につけられるのは、特別支援学校の良さです。

デメリットとしては、やはり社会とのつながりが薄くなり続けてしまうところです。そこが逆に言えば、インクルーシブ教育のメリットになると思います。私は小学校の頃、いわゆる統合教育に近い環境で学んではいましたが、やはり小学生はなかなか残酷ですので、結構、しんどい思いをしました。私自身には良い経験とはなりましたが、できれば、子どもたちにはしてほしくないと思っています。

国連からの勧告を受けているからインクルーシブ教育にしてしまおうというのは、実際に障がいのある方にとっても負担がかかってくるものです。周りで一緒に学んでいる子たちにとっても負担がかかってしまいます。小学生や中学生の頃に障がいについて正しく学び理解するのは難しいものだと思いますし、障がいのない子どもや保護者が『こっちが割りを食うものだよね』という印象を学びの場を通じて持ってしまうと、それが社会に出たときに良くない方向に行ってしまうこともあるのかなと思っています。

そこで、学びの場をまず整えるというのが統合教育をしていくうえでは大切なことです。障がいのある当事者にも、一緒に学んでいく健常と言われている子どもたちにも過度な負担にならないか、学びが保障されるのかも含めて検討すべきです。その視点からも、私は両方を選べるようになると良いと思っています」。

石戸:「選択肢が多様であることは、とても大事なことですね。どちらが良い、悪いということではなく、一人ひとり、いわゆる健常と呼ばれている方も含めて、全ての方の学びがしっかりと保障されること、それが大事なんだということを、お話を伺っていて改めて感じました。

全ての子どもたちの学びを保障するという視点からは、テクノロジーの活用も大切だと思います。私は、1人1台情報端末の導入を政策提言させていただいていました。全ての子どもたちに個別最適化された学びを提供し、合理的配慮を全ての子どもたちに提供するためのインフラであると考えています。川本さんが提供されているオンライン個別指導塾も、テクノロジーによって学びの保障に寄与していると思います。そのような視点から、川本さんがテクノロジーに期待することはどのようなことでしょうか。また、テクノロジー以外でも、一人ひとりの学びを保障するためにもっとこういう工夫があるのではないかというお考えがあれば、教えていただければと思います」。

川本氏:「テクノロジーについて、まず感じているのは、その進化です。弊社では学習管理システム(LMS)を自社で構築をしていて、LINEを通じて使えるような形で提供していますが、以前に比べるとすごく開発しやすくなりました。さらに、視覚障がい者に限ってかもしれませんが、AI技術やOCRなどの文字認識技術の進歩は目覚ましく、『目を代替する手段』になりつつあると思っています。テクノロジーの進化によって、学びだけでなく、普段の生活や仕事もずいぶんしやすくなってきていると思っています。

とりわけAIは、視覚に障がいを持つ人が苦手としていたところ、例えば大量のテキストから目的のものを抽出するといった作業にはかなり有効です。ただし、目が見える方も同じものが使えるので、視覚障がい者といえどもテクノロジーの進化についていかないと、より深い溝にはまって追いつけなくなってしまうところがあるのかなと思っています。ギガスクール構想で、タブレット端末が視覚に障がいのある子どもたちを支援する学校にも配備されているのを見たことがあり、素晴らしいと感じました。新しいテクノロジーを使いこなす基盤がきちんと整備されないと、視覚障がい者が置いていかれてしまうことにもなりかねません。

ただし、実際にはChromebookが各学校に配られていますが、視覚障がいの当事者でChromebookをバリバリ使っている方は、あまりいらっしゃらないようです。インターネットなどで調べてもなかなか出てきません。Chromebookをどうやって使えば良いのか、手探り状態にある小学生や中学生の話はたまに耳にします。そういった情報をもう少し共有していきながら、新しい使い方を発見できるぐらいになると理想的だと思っています」。

石戸:「『こういう不自由があるから、こういうように改善してほしい』というところから、新しいテクノロジーや新しいサービスが生まれることは、これまでにも多くありました。もともとは何らかの困難さを抱えている当事者の方の発案が、より多くの方にとってのより使いやすいものにつながることもあると思います。私たちも『みんなの脳世界』では、テクノロジーを通じた社会課題解決を一つ柱として掲げていますので、何か一緒にできることがあると良いなと思いながら、お話を伺っていました。

少し踏み込んだ質問をさせてください。川本さんご自身、初期は弱視で見える世界を、その後は見えなくなった世界を、両方体験されていらっしゃいます。世の中を見ると、見えている人と見えていない人とでは、物事の捉え方が違うことが多くあると思います。そうしたお互いの違いを共有していくことも、『みんなの脳世界』のミッションの一つです。両方の世界を通じて川本さんが感じていらっしゃる世界の捉え方の違いや、『見えているからこそ見えないこと』があれば、教えていただければと思います」。

川本氏:「前提として私がまだ子供の頃は弱視だったので、その頃に見えていたものは子供視点のバイアスがかかっているのを認識した上ですが、見えて目から入ってくる情報は世界を見るときの本質の一要素でしかないと思っています。見えていた頃は風景を見ても、その見えていたものだけで分かった気になっていました。

そのときは本当に分かった気になっていましたが、見えづらくなってくると触る、持つ、匂いを嗅ぐなどをしないと本当に分からなくなって、例えば見えていたときに『この家すごく綺麗な家だな』と思っていたのですが、実際見えなくなって近くを通ったとき塀に触わると『あれ。なんか結構見た目ツルツルしてると思っていたけど、割とザラザラしてるな』『意外と草が生えてるな』みたいな、見えていたときには分からなかったものが触ったり近づいたりすることで今は分かるようになってきたところがあって、『普段歩いてるところも匂いがするな』『カレーの匂いがしてるな』など、『意外とこの辺りは臭いかもしれない』と、見えているだけでは分からないものが、見えなくなってから捉えられるようになってきたと思っています。

『みんなの脳世界』の出展の展示内容に絡めると、自分も見えない、相手も見えない状態の中で何か物事を説明する体験をしていただきたいと思っています。そこでいかに目に頼っているかがわりと分かってきて、『あれ』『これ』『それ』など、意外と分からなかったりします。人によっては、見えているときよりも、触ったときの感触を伝えた方が伝わりやすい可能性もあると思っていて、そういったところに視覚という一つの要素を無くしてみて、伝達をしてみることを体験してもらえると面白い経験になるのかとは思っています」。

ブイリーチでは当事者のちょっと先を歩く先輩とつながっていられる
そういう講師自体がすごく良い価値になっている

石戸:「視覚に頼りすぎていることで、見失っていることもたくさんあるんだろうなと思います。全ての人が多角的な視点で物や出来事を見るためにも、いろいろな感覚を研ぎ澄ましてみて、視覚以外の感覚で世の中を捉えてみる。そうした体験は、すごく価値があるものなんじゃないかなと思いながら、お話を伺っていました。

今回、ブイリーチさんでは、視覚障がいの当事者が教えることに一つの価値を置かれているのかなと思います。当事者だからこそ伝えられることは、おそらく勉強を教えること以外にもたくさんあるからこそ、このサービスの価値も上がっているのではないかなと思います。

当事者が教えることの価値を、どのように捉えていらっしゃるのか、教えていただいてよろしいでしょうか」。

川本氏:「二軸あると思っています。一つは学びです。点字でどう勉強するかみたいな、本当にスキルですかね。当事者だからこそ教えられるところかなと思っています。

一番大事と思っているところは、視覚障がいのある中で学んでいく、今現在成長中の子どもたち、いろいろな思い、親御さんとの関係や兄弟との関係、友達との関係、大学進学、高校進学への不安とか期待など、成長していく中でなかなか相談できないことはあるのかなと思っています。

私も実際にあって、今自分ができない、やりたいけど、できないことというのが見えないがゆえにできない。見えないことによる壁にぶつかったときに、そのことを見えている人に相談しても『じゃあ、やめとこうか』と言われることや同情されてしまうようなことは多分にあります。それがすごく嫌だった思い出もあって、同じような経験をして、同じような壁に実際ぶつかってきた当事者だからこその視点で話もできるかなと思いますし、同じような見え方の先輩が今こういうように大学に通っていることを知っていただけるだけでも、大きな価値だなと思っています。

ですのでスキルをすっかり教えていく、勉強を教えていくのも一つ大きな軸ですし、もう一つは当事者のちょっと先を歩く先輩とつながっていられる、そういう人たちがいることを知れる講師自体がすごく良い価値になっているかなと思っています」。

石戸:「最後に、社会に対してどういうことを求めるか、教えていただきたいと思います。これまで。なんとなくマジョリティとされる方々、もしくは平均とされる方々を前提に、いろいろなものが作られてきたと思います。それは制度もそうですし、教育環境や職場環境、年齢の捉え方、プロダクトなどもそうかもしれません。しかし、これからは一人ひとりが多様であり、認知のあり方も人それぞれ違うことを前提に、新しい社会をデザインしていきたいと思っています。川本さんが『こんな社会であってほしいな』『こういうことを変えてほしいな』と思うことがあれば、最後に一言いただいて、終わりにしたいと思います」。

川本氏:「やはり今おっしゃっていただいたように、一人ひとり認知や何を情報源にしているかは絶対違っていく中で、まずそれを知ろうとしてほしい、そういうものがあるんだよっていうことをまず知ってほしい、そういうことを知ろうとする能動性がある人たちがたくさんいる社会というのが素敵だと思っていますし、私は能動性、自ら変えていこうとするのが大事だと思っていますので、障がいのある人、障がいのない人、どんな人も自分が何か自分の認知の仕方、見える世界を伝えていこうという認識を持ってほしいですし、他の人が伝えているときにそれをなるほどと受け入れるマインドを持ってほしいなと思っていますので、誰もが、『自分がこの社会を作っていく一員なんだよ』という意識を持ってほしいです。

それが排除されるものではなくて、お互いにアウトプットして、お互いに受け入れ合うんだというこの流れを皆さんがマインドとして持っているような社会というのが一番良いのかなと思っています。

その先に実際のプロダクトや製品がついてくるのかなと思っていますので、まずは心というかマインドのところから始まるのかなと私は思っています」。

石戸:「私たちの『みんなの脳世界』にも、『社会の創造』というコーナーがあります。一人ひとりの違いをお互いに尊重しながら、どうやって新しい社会をみんなでつくっていくのか。一人ひとりが主体的に社会創造に参画する中で、ニューロダイバーシティ社会をつくっていこうというのが、私たちの5つ目のコーナーでして、今の川本さんのお話にぴったりだなと思いました。

最初に、『できない』を前提にするのではなく、『できるためにはどうすれば良いか』を考えてほしいというお話がありました。川本さんのこれまでの生き方を伺っていると、もしかしたらこれまで、『見えないのに』という言い方をされてきたこともたくさんあったのではないかなと思います。新しい世界に飛び込むために一人で東京へ出て進学され、それから何度も留学を経験し、いろいろな国でチャレンジされ、さらには学生の間に起業までされている。そうしたお話を伺っていると、『できない』って何だろう、と改めて考えさせられます。『できない』というのは、実は自分自身で心の中に制約を作ってしまっていることなのかもしれません。そして、その心の制約をつくる一つのきっかけとして、周りの人の、決して悪意があるわけではないちょっとした一言が、場合によっては『できない』という気持ちにさせてしまうこともあるのかなと思います。だからこそ、一人ひとりに無限の可能性があるということを前提に、これから新しい社会をどうやって作っていくか。それが大事なのだと、今日のお話を伺って改めて感じました。

本日はお忙しい中、貴重なお時間をいただき、ありがとうございました」。