REPORT

発達に特性を持つ子どもの子育てをもっと気軽に、当たり前に。
SNS「テテトコ」が目指す社会とは

2025年6月24日

B Labではニューロダイバーシティに対する理解をさらに深めるとともに、社会における多様性と包摂性を推進するための新しい道を切り開くことを目指し、ニューロダイバーシティ社会の実現に向け顕著な功績を挙げているテクノロジー、プロダクト、ソーシャルアクションなどを表彰する第1回ニューロダイバーシティアワードを開催しました。同アワードの社会実装部門でニューロダイバーシティ賞を受賞したのが株式会社ZIZOです。同社の大曽根 俊輔氏(写真1)に、受賞対象となった「子どもの発達特性でつながるSNS『テテトコ』」の開発背景や利用者からの声、今後の取り組みなどについて、B Lab所長の石戸 奈々子(写真9)がお聞きしました。

写真1●・株式会社ZIZO 大曽根 俊輔氏


発達特性のある子どもの保護者同士がつながり
毎日の子育てをちょっと前向きにする

石戸:本日は第1回ニューロダイバーシティアワードの社会実装部門でニューロダイバーシティ賞を受賞した『テテトコ』を開発している株式会社ZIZOの大曽根 俊介さんにお話を伺います。子どもの発達特性でつながるSNS『テテトコ』とは、どのようなものですか。お聞かせください。

大曽根 氏:テテトコ』はiOSとAndroidで使えるアプリです。それを開発した私たち株式会社ZIZOはWebデザイン、Webサイトの開発・企画、Webプロモーションなどを手がけるクリエイティブ・エージェンシーです。そんなZIZOが、なぜテテトコ』を開発したのか。まずは、そこからお話しします。

近年、ニュースなどでも報道されているように、子どもの発達支援を必要とする家庭が増加しています。それに伴い、発達に特性を持つ子どもの保護者も増えています。テテトコ』はその保護者に向けたサービスです。

発達に特性のある子どもを育てている保護者の方々は、いわゆるパパ友・ママ友との付き合いを控えるなど、徐々に交友関係が狭まってしまう、同じ立場の人とつながっても保護者同士が深く交流する機会が少ないといった傾向があるとされています。

そのような保護者の孤立をなんとか防げないかと考えて作ったのがテテトコ』です。SNSですが、一般的なSNSと比べて大きく異なる最大の特徴は、『当事者しか参加していない』ことです。テテトコ』を利用することで、自分と同じ立場の保護者と気軽につながることができ、本音で話せて、たくさんの共感が得られる、それによって普段の子育てをちょっと前向きにできるようにすることを考えています。(▲写真2▲)

写真2●同じ立場の保護者と「つながり」「本音で話せて」「共感する」ことで子育てをちょっと前向きにするのがテテトコ』

気軽に本音でつぶやくことで
たくさん共感の声が集まりやすくなるのが特徴

大曽根 氏:私たちが目指しているのは、『子どもの発達の話をもっと気軽に、あたりまえに。』できる社会、世の中にすることです。(▲写真3▲)

写真3●ZIZOがテテトコ』で実現したい世界観

テテトコ』の使い方は、まず、利用者に『ウチノコカード』を登録してもらいます。ここで登録する内容は、年齢、通学・通園先のほか、児童発達支援センターなどに通わせている場合は、その種別と頻度、医師の診断を受けている場合は、その診断内容なども登録していただいています。(▲写真4▲)

写真4●子どもの発達特性を『ウチノコカード』に登録

これらに加えて、気になることを登録してもらうようにしています。例えば『言葉で伝えることが苦手』といったことや、発音や滑舌、不注意や協調性など気になるところなどを4つ程度選んで登録してもらいます。そのお子さんの特性が一目見てわかるような状態にすることで、利用者の方々が『うちの子と似ているかもしれない』と感じて、同じような立場の保護者の方々がマッチングしやすい状況を作っています。同じような立場の方々なので、当然ですが困りごとの種類、困り事が起こる頻度も似てきます。さまざまなことに共感しやすくなるようにと考えています。このように、気軽に本音でつぶやいて、それでたくさん共感の声が集まってくる、それが、テテトコ』の特徴だと考えています。(▲写真5▲)

写真5●気軽につぶやくと共感が集まるのがテテトコ』の魅力

また、トークルームという機能も用意されています。特定のテーマで深く喋りたいというときに、利用者がトークルームを作ることができ、共通のテーマで集まり、深く議論や悩みを共有することができる機能です。(▲写真6▲)

写真6●共通のテーマで集まり、じっくりと話すトークルーム

今はあくまで保護者だけが参加するSNSですが、今後は支援者や企業・団体も一緒に何か取り組みができたらと思っています。最終的には子育てしている保護者の間で『テテトコ』というサービスが共通言語になり、子育て世代の日常会話に自然と『テテトコ』が出てくるようになる、そうなると良いなと思っています。(▲写真7▲)

写真7●テテトコを子育て世代の共通言語としていきたい

発達特性のある子どもの保護者同士が
コミュニケーションできる場として『テテトコ』をスタート

石戸:テテトコは名前そのものがとてもかわいらしいのですが、どのような思いが込められているのですか。

大曽根 氏:漢字で書くと手の複数形で『手々=テテ』、『ト』は&(アンド)という意味、『コ』は子どもの子、『手々&子』です。たくさんの保護者が手を取り合って、その真ん中に子供がいるというイメージで『テテトコ』と名付けました。

石戸:凸(デコ)と凹(ボコ)が2つ合わさってというデザイン(▲写真8▲)も素敵です。Webデザインを展開されている企業ならではのお洒落さとかわいらしさのあるサービスだと思いました。

写真8●テテトコ』のデザインは凸と凹が

大曽根 氏:ロゴやアプリ自体のデザインも社内のデザイナーが作っています。

石戸:このSNSは、実際にはさまざまな困りごとを抱えていらっしゃる保護者に寄り添ったサービスですね。設計するにあたり、当事者の方々や支援をされているご家族の方々にかなりヒアリングをされたのでしょうか。

大曽根 氏:このサービスについて考えた経緯からお話しすると、まずは私の身の回りにも孤立して悩みを抱えている保護者がいたこと、会社でもそういう悩みを抱えている人が身の回りにいるとわかったことが、ひとつのきっかけでした。そこから、さまざまな当事者の方に話を聞き、SNSやインターネットなどでリサーチをしていく中で、『悩んでいらっしゃる保護者が多い』とわかり、テテトコ』が始まりました。

石戸:困っていらっしゃる方のヒアリングをされた中でもっとも多かった要望、『こういう機能が欲しい』という声はどのようなものでしたか。

大曽根 氏:保護者の方の自分が抱えている困りごとや悩みを友達に話しても『理解してもらえない』『なかなかわかってもらえない』という声は多く聞きました。

発達特性の子どもを持つ保護者や家庭と、定型発達の子どもを持つ保護者や家庭では、やはり子育てにおける悩みや困りごとが異なるのです。それだけでなく、発達特性の子どもを持つ保護者、つまり当事者同士が交流する機会がすごく少ないのです。例えば、保育園の3歳児健診などで発達特性を診断されると、子どもを発達支援センターなどに通わせることがあります。ただ最近では、通う際に送迎が付いているところも多く、発達支援センターに通わせている親同士が会う機会が少なくなっており、あまり交流したことがないという話も聞きました。そこで、当事者同士でコミュニケーションできるような機会が増えた方がいいし、そのような場があった方がいいと考えました。

石戸:同じ悩みを抱えた人同士がコミュニケーションを取れるような場所を設定したということですね。そこで、テテトコ』では、最初に困りごとなどを書いてもらっているのですね。その際、診断結果を書くところがありました。診断結果を記載することに対して躊躇の声はなかったのでしょうか。もしくは、受けている診断はオープンにしてコミュニケーションをとりたいという声のほうが多かったのでしょうか。

大曽根 氏:もちろん診断結果は匿名になりますので、診断結果を記載することには、そこまでの抵抗はなかったと思っています。

テテトコは、子育て中の心のモヤモヤや
ちょっとした不安を話してホッとできるコミュニティ

石戸:今『テテトコ』には、どのぐらいの利用者数がいますか。

大曽根 氏:登録ユーザー数は4000名ぐらいです。

石戸:普段、どのようなコミュニケーションが多いのでしょうか。

大曽根 氏:本当に幅広いですよ。『今日こんなことがあった』『子どもがこんなことした』という話や、もっと愚痴っぽいというか、ネガティブな投稿もあります。他のSNSだと愚痴っぽいネガティブな投稿をするとすぐに攻撃されたり、嫌なことを言われたりすることもありますが、「『テテトコ』だと、それがない!」という話はよく利用者の方々から言っていただきます。

石戸:お互い苦労もある仲だからこそ、お互いに分かり合えたり支え合ったりする。ネガティブなことに対しても共感できるという反応が多いということですよね。利用者からこれまで、『こういう改善をして欲しい』といった要望はでてきていますか。また、それを踏まえて改善したことはありますか。

大曽根 氏:まさに、愚痴っぽいこともネガティブなことも『分かり合える』に通じる話ですが、もともと『テテトコ』には『いいね』ボタンがありました。よくある『いいね』ボタンです。ところが、愚痴っぽい投稿やネガティブな投稿のときに、『すごく気持ちは分かるのに、いいねボタンは押しにくい』という声がありました。そこで、今では『いいね』のラベルを外し、緑のハートにしています。『いいね』をするのではなく、分かるという気持ちをハートにして送るという表現です。愚痴っぽいことでも『分かる』という共感を込めてハートを送るやりとりへと改善しました。

石戸:いいねボタンを緑にしたのはどうしてですか。

大曽根 氏:ピンクのハートだと『共感』という気持ちからは、少しずれるかなと思いました。カラーもいろいろと検討したのですが、最終的には利用者の気持ち的には緑が良いだろうと決めました。

石戸:もともと発達特性がある子どもの保護者がコミュニケーションする場所がないという社会的な課題があるという気づきからこのサービスを展開されたと思いますが、実際に運用してみて、新たな気づきや課題の発見はありましたか。

大曽根 氏:最初は私たちも保護者が孤立しているということは、ある種の仮説でした。ただ実際、サービスを開始してみたら、思っていた以上にそういう方々が多くいらっしゃったと感じました。

石戸:『テテトコ』の利用は、口コミで広がっていったのでしょうか。

大曽根 氏:そうですね。口コミ以外にはインフルエンサーの方にPRをご協力いただいています。ただ、そこまで広告は打っていないので、こういうSNSに関心が高い方の間で話題にしていただくというかたちをとっています。

石戸:当事者の方々の居場所になっていて、心のモヤっとしたことや不安感を出せる場所だと思います。そういう場所の役割を果たしているからこそ、出てきたコミュニケーションなどで印象に残っている利用者の声があれば教えてください。

大曽根 氏:印象的だったのは、『他のSNSだと、その人がつぶやいている困りごとの種類や程度が違うので共感することが少なかったが、『テテトコ』だと首がもげそうになるほど頷ける』という声を頂いたことです。また、『寝る前にいつも不安になって検索したり、調べては不安になったりを繰り返していたけれども、『テテトコ』に出会ってモヤモヤすることがなくなりました』という声もありました。

『テテトコ』は、利用者の方々が本当に良い人たちばかりで、本当に良いユーザーばかりのすごいコミュニティになってきていると実感しています。当事者ももちろんですが、グレーゾーンの人や何かしら子育てに不安を抱いている人も、一度訪れていただいたら、必ず有益な情報に出会うことができ、今より少しポジティブな気持ちになってもらえると思っています。

石戸:保護者が一息つけたり、愚痴をこぼしたりすることで、笑顔を取り戻して、子どもたちと過ごせるようになったら、子どもにとっても保護者にとっても家族にとっても、とても幸せなことだと思います。

今後は、アンケートを取りながら追加機能や
新機能の開発に取り組んでいきたい

石戸:この先『こういう機能を付け加えたい』というお考えもあると思います。今後の『テテトコ』の展望、将来像を教えてください。

大曽根 氏:まだ4000名程度の規模ですので、もっと広げていきたいと思っています。できるだけ早く利用者数1万人を達成したいと思っています。機能に関しても、基本的にユーザーの声はこれからも積極的に反映していけたらと思っていますので、今後はアンケートを取りながら、追加機能や新機能の開発に取り組んでいきたいと考えています。

石戸:『テテトコ』の利用料は無料ですよね。事業として成立させていくために、これから先、考えていらっしゃることはありますか。

大曽根氏:『テテトコ』のコミュニティと何かしらの取り組みをしてみたいという企業や団体を今も募集しています。実際に問い合わせもいただいていますが、ユーザーの方にアンケートを取ることやモニターの方にご協力いただくといった取り組みをしていきたいと思っています。

石戸:私たちはニューロダイバーシティ社会の実現をミッションにさまざまな活動をしています。今回、『テテトコ』は、ニューロダイバーシティアワードを受賞されました。それを踏まえて、これから先の未来の社会、ニューロダイバーシティ社会実現に向けてメッセージをいただけますか。

大曽根氏:私たちは『テテトコ』を起点にして子どもの発達の話をもっと気軽にできるような世の中になればいいなと思っています。それは、子どもの個性や神経、脳の違いなど、生まれながらにさまざまな違いがあることに対する理解が広がることとイコールだと思っています。『テテトコ』を使う人が増えていくことでニューロダイバーシティ社会の実現の一助になれば嬉しいです。

石戸:これからもニューロダイバーシティ社会実現に向けて活動ができたらと思います。ぜひ、協力しながら取り組んでいきたいと考えています。

写真9●B Lab所長 石戸 奈々子